産後の孤独感、孤立感を抱えている方や、産後の女性の孤立を何とかしたい!そう思っている支援者さんに、母子が地域につながるために必要なステップな何か。産前産後専門の臨床心理士、公認心理師が、カウンセリングを通して大切だと考えていることを書きます。
今、妊娠中や産後の女性が、
家事・育児を助けてくれるサービスがあるのは知っているけど、
利用するに至る人が少ないという現状があります。
これは、産後ケアを広めていくための、重要な課題です。
利用するに至らない理由は、色々あります。
例えば、
・利用するための手続きが煩雑でめんどくさい。
・利用しようと思ったら、利用できる期間が過ぎていた。
・民間サービスにお金を払ってまで頼むなら自分でやった方がいい、お金を使うことの罪悪感がある。
・家事の仕方にこだわりがあったりして、人にそこを触られたくない。
・一回利用してみたけど、来てくれた人との相性がイマイチだった。
・もっとしんどい人のためのサービスであり、自分がこれを使ってもいいのかわからない。
私が、ざっと思いつくだけでも、これくらいはあります。
そこで、今回は、産前産後の女性専門の心理カウンセラーとして、
そのような女性が、孤立しないで周囲を頼る力を発揮するために、大事だと思うことを書きます。
家族の内と外の境界線が、脅かされる不安は幼少期から
私には、小学生の子どもが二人おり、よくお友達が家に遊びに来てくれます。
私は、お友達が家に来てくれることはウェルカムで、
できたらお友達の親御さんともつながりたいタイプです。
その方がお互いの子どもの居場所がわかって安心だし、
お世話になったりご迷惑をかけたりした際には、連絡がとれる関係になりたいと思っています。
なので、初めて来てくれたお友達が帰る時には、
お家まで見送り、親御さんとあいさつしたり、連絡先を伝える努力をしています。
「お家の場所、教えてもらってもいい?」「ママとご挨拶してもいい?」とお友達に尋ねた時に、
そのお友達が、とたんに警戒した表情をすることがあります。
さっきまで、のびのび遊んでいた子が、「いや、(余計なことしなくて)大丈夫です!」と。
その反応で、お家が閉鎖的なのかなぁ、親御さんが人付き合いが苦手なのかなぁ、とか、いろいろ思います。
友達の家で、おやつをもらったことや、ケンカしたことがお母さんにバレたら怒られる。
それが、怖いと教えてくれた子もいました。
そんな時には、
そのお友達の安心感・安全感を守るために、無理に親御さんをコンタクトをすることを控えますが、
「子どものころから、家の内と外の境界線には、とっても敏感なんだな」と思います。
子どものころから、
”外の人から施してもらってはいけない”、
”迷惑をかけてはいけない”、
”家の内部事情や恥をさらしてはいけない”、
というのは、まるで家訓のように家の空気としてしみ込んでいます。
さてさて、ここから本題です。
そんな家族の空気をたっぷり吸って大きくなった女性が、
妊娠中や産後に、地域につながりましょう、頼ってもいいんだよ、と言われても、
反射的に警戒心や恐怖心が生まれます。
育った家族の空気だけでなく、
学校時代に、いじめやスクールカーストで、逃げたいのに逃げられなかった経験などの影響もあります。
そのような経験や対人関係のトラウマを経験している人にとって、地域のつながり=地縁は、
自分がからめとられる恐ろしいものとなります。
でも、子育ては一人ではできない。
そこのジレンマ。
ママ友を作ること、身近な支援者に頼ること、サービスを受け取ることは、
利用したらいいのかもしれない、
でも、自分のプライベートな安心感を犠牲にし、プライドを差し出したり、家族の境界線を侵される代償を払うことのように感じます。
このようなジレンマに、「つながることが怖い」妊産婦さんは、自力で頑張るしかなくなってしまいます。
このような方が、私のカウンセリングに来てくれた時には、こんな関わりの工夫をしています。
「つながる力」を発揮するための工夫
1.カウンセラーとの関係の中で安心・安全を担保する
私も、”サポートする側”の一人です。
今まで、支援しようとする人から傷つけられた方にとって、私と関わること自体、怖いことのはず。
私は、心の安心、安全を担保するために、当たり前のことですが、
・約束はきちんと守る
・カウンセリングの方針を明確にお伝えする、介入するときはその意図も伝える
・心の境界線にセンシティブになり、コミュニケーションする。
ことを気を付けています。
そして、支援者という存在に投影している妄想、
例えば「この人は、私の家が汚いから、私のことをダメな母親だと思っているだろう」
がはがれることを目指します。
そうして、一対一の関係の中で、この人は私を否定しない、傷つけてこない、という安心感を体験してほしいのです。
2.自分の心の守り方を心得る
人との境界線があいまいな方にとって、違う価値観や考えをもった人に出会った時、そこに迎合しなければならない、自分が嫌な思いをしても我慢しなければいけない、と思っている方が多いです。
対等な人間関係を知らない人は、人と違うということ自体に傷ついたり、自分が劣っているように感じたりするのです。
そして、自分の心の守り方がわかりません。
そんな方には、まずは「自分の心は守ってよい」とお伝えします。
”自分が自分のことを守れる”とわかっていることは、安心して人とつながる上で必要なことだと思います。
その場から上手に逃げられる術をもち、自分の意見や価値観をアサーティブに、かつ、軽やかに伝えられるようになると、
だいぶんとその場を楽しめるようになります。
3.妄想的不安には、現実のトライ&エラーでさようなら
先ほども触れた、支援者やママ友という存在に、妊娠中や産後の女性は、さまざまな妄想的不安をかかえているものです。
・「虐待しそうな母のブラックリストにのらないか」
・「ママカーストで、マウンティングされる」
とか。
それらは、現実にそういうこともあるかもしれないけど、だいたいは妄想であり、現実に基づかない不安です。
そのような妄想的な思考や不安には、
「それって本当かな?」と問いかけ、過去の経験からくる思い込みを認識できるようにサポートします。
そして、「本当かどうか、確かめてみるのはどう?」という提案します。
その提案に怖いながらも乗って、現実の人間関係で、知り合ったママさんに声をかけてみるとか、保育士さんにちょっと家庭の事情を相談してみるとか、そういうことができるようになると、よい成功体験になります。
その成功体験に、私はめちゃめちゃ拍手と称賛を送ります!
こうして、妄想的不安と、さよならできたら、人生観が変わりますよね(^^)。
4.心のクッションを用意する
そうはいっても、現実の人間関係は、うまくいくことばかりではありません。色んな人がいます。
トライ&エラーする中で、傷ついたり凹んだ時には、よしよししてもらえる人がいる。
受け止めてくれる心のクッションがある。
これが、チャレンジする勇気、チャレンジを続けていくのに、必要です。
カウンセラーがその役割を果たせるように、
そして、カウンセラー以外にもそんな心のクッションになってくれる相手を見つけられるように、応援します。
母子が地域に出ていくために
私のイメージでは、
ずっと川で育ってきた鮭が、太平洋の大海原に出ていく際に、
真水と海水が混じるエリアで、徐々に海水に身を慣らしていくように、
プライベートな殻から、地域という大海原に開かれていく中間地点として、
カウンセラーを利用してほしいと思っています。
しかし、必ずしも海に出ていくこと、地域と繋がることを、絶対的に良いことと、思っているわけではありません。
家という、とっても安心な自分の殻の中で、パーソナルな安心や喜びを味わうこと尊重したいし、
そういう中で自分の体験をかみしめることが好きな方は、それでよしと思うし、
それでよしと思えることを、応援したいとも思っています。
つまり、川にもどる鮭もいたって、その人が生きやすいなら、いいんじゃない、ということです。
(鮭に例えられて、不快な方がいたら、ごめんなさい。)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ふじさわマターナルカウンセリングーム
藤澤 真莉(臨床心理士・公認心理師)
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