こんにちは、産前・産後・子育て中、妊娠や出産にまつわる心の専門家、
臨床心理士・公認心理師の藤澤真莉です。
今回は、中絶した女性へのカウンセリングの中で使っている、
中絶を選んだ理由と背景を、整理・理解するのに役立つ、フレームワークをご紹介します。
これは、相談者さん自身が、頭と心を整理することに役立ちますし、
支援者が、偏見なく寄り添う姿勢を保つのに役立つものではないかと思います。
*このフレームワークは、NPO法人ピッコラーレ様主催の、『思いがけない妊娠相談事例から学ぶセミナー2021』研修Aを受講してヒントをいただき、私が実際のカウンセリングで使ってみて役に立ったものです。また、この記事を書くにあたって、同研修Aの資料P41-42を参考にしています。今回の記事を書くにあたり、使用の許可をいただいております。
中絶するまでの複雑な思い
中絶すると決めるまで、どんな気持ちのプロセスがありましたか?
すぐに中絶をすると決めることができた人もいるでしょう。
一方、たくさん迷いも葛藤しながら、決断したという方もいると思います。
妊娠する前、妊娠が分かった時、そして中絶すると決めるまでの間に、たくさんの気持ちと、思考過程があったはずです。
そして、中絶した後に、本当にこの選択が良かったのか、わからなくなってしまうことがあります。
私のカウンセリングでは、クライアントさんに、決断に至るまでのプロセスを教えていただいています。
「妊娠がわかった時は、どんな気持ちでしたか?」
「そこから、どんなことを考えましたか?どんなことがありましたか?」
「パートナーや、家族にはそのことを伝えましたか?」「その時、相手はどんな反応でしたか?」
などをご質問します。
すると、その方が身を置いている人間関係、社会的ステイタス、経済的状況、ライフステージ、妊娠して感じた身体的な変化、育ってきた中で身に着けた価値観、命についての感じ方など、いろいろな情報が出てきます。
不安と、心配とを感じながら、中絶についての情報も調べたことでしょう。
そして、中絶をしたあとに苦しい思いを抱えている時、こんがらがった気持ちを抱えています。
中絶するまでの複雑な感情や思考について、すべてを意識し、自分でそれを認めることや言葉にすることは、とても難しいのです。
そこで、私はカウンセリングの中で、まずは上記の質問をして、話せる分だけ、自由に話していただいた後、
以下のフレームワークを相談者さんに説明し、中絶するまでの複雑な思いを整理し、理解することを提案します。
したい・できる・すべきの3つの輪
このフレームワーク、『したい・できる・すべき』の3つの輪は、キャリアカウンセリングでよく使われているものです。
- したい=will、主体的な意思
- できる=can、今できること、将来にわたって実現可能だという認識
- すべき=must、社会規範や常識、周囲の権威者の意向
この3つの輪の重なりが多いほど、人は最も主体的になり前に進むことができるとされています。
一方で、輪の重なる部分がない場合や、輪が重なりが少ない場合、葛藤や悩みが生じます。
例えば、 産みたい気持ち、育てたい気持ちはあっても、 まだ学生で経済力がなく、パートナーや周囲が反対している場合、
『したい』の輪が、他の二つ『できる』『すべき』から離れていることになります。
あるいは、夫の間の子だけど、上のお子さんがたくさんいて、とてもじゃないけど今は経済的に産めない、いうのが主な理由だった場合は、
『できる』の輪が、他の二つの輪と重ならなかった、ということになります。
丁寧にお話を聴きながら、その方が中絶した理由と背景を整理するように、このフレームの上に書いていきます。
私が大事だと感じているのは、中絶した主な理由以外の部分も、聴いてみることです。
なぜ聴くのか。
それは、ご本人も自覚していない、意思や考えに、光を当てるチャンスになるからです。
すると、「実は、産めないだろうかと思って、養子に出すにはどうしたらいいか、調べたりしたんです。」とか、
「夫は私の意志を尊重すると言いながら、本当は望んでいないことが伝わってきて、無理だなと思ったんです」とか、自発的には語られなかったことが出てきます。
中絶までの間に考えたけど、埋もれていたご本人の思考や感情が、明らかになってきます。
この作業は、こんがらがった考えと気持ちをほぐすのに、役に立ちます。
今まで意識的に言葉にしたことはなかったけど、確かに自分が思っていたこと、感じていたことを、確認するのです。
そして、この作業が進むことで、中絶をした後、大きな罪悪感で、こころが押しつぶされそうになっている人の、
自分自身についての捉え方、自己についての認知のバランスを回復するための足掛かりになります。
このフレームワークを一緒にながめながら、中絶するまでの抱えていた事情や、気持ち、考えたことを振り返ります。
そして、それを文字にして、一緒に全体を眺めます。
すると、
「もし、これが私の友達に起こったことなら、そういう判断もあるよね、と思います。」
「そんなに、ひどい悪人の話ではないように思います。」
と、ちょっと違った感じ方が出てくるかもしれません。
だからといって、霧が晴れるように、苦しい思いや罪悪感がすぐになくなるわけではないでしょう。
しかし、過去の自分をフェアに見ることにつながっていきます。
話を聴く側がノージャッジの姿勢でいるためにも役に立つ
このフレームワークは、相談者さんだけでなく、話を聴く側、支援者にとっても役に立ちます。
中絶というテーマは、話を聴く側にとっても、感情が波打つ話題です。
そして、社会的な偏見や、性や命の道徳的な価値基準にのせて、捉えてしまいがちでもあります。
カウンセラーとして、注意しなければならないのは、中絶する女性を、安直に病理化して「人格の問題のある人」と認識してしまうことと思っています。
私自身は、ノージャッジで理解することに努めています。
だから、相談者さん自身が、表面的に話せることだけが、この人の全てではない。
理解したい、寄り添いたいという姿勢で、まだご本人も言葉にできていないことを、拾いたいです。
そのような姿勢を保つためにも、このフレームワークを導入することは、役に立っています。
まだまだ、経験不足ですし、未熟で不完全であることは承知しているのですが、
臨床心理士・公認心理師として、中絶後カウンセリングの発展を切に願っています。
ベイビーステップで、、、あなたの役に立ちますように。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました☆
女性専門の心理カウンセラー/臨床心理士/公認心理師
ふじさわマターナルカウンセリングルーム
藤澤 真莉