産前産後。ケアを受け取る時、プライドが試される。

こんにちは!大阪で、産前産後・子育て中の女性のための心理カウンセリングをしている、臨床心理士・公認心理師の藤澤真莉です。

さて今回は、
産前・産後の女性で、
頑張り屋さんで、まじめで、
人に迷惑をかけないように気を遣い、
一人で育児の大変さを抱えてしまう女性に、
届けたいメッセージを書きます。

どんなに周りから、「人に頼りなよ!赤ちゃんをだっこしようか?家事を助けてくれるこんなサービスがあるよ!」と、声をかけられても、

え~、でも私がもうちょっと頑張ったらなんとかなるんじゃないか。
私はダメな母親と言われている気がする。
人に頼ったら、実母や義母に、なんて言われるだろう。

などを感じて、「助けてください。お願いします。」

と言えない、言いたくない。

わかるよ~!

そんな方に、この小説を紹介したい!

『雪と珊瑚と』梨木果歩 角川書店

私は、梨木果歩さんの小説がどれも好きなんですが、子どもを産んでから出会った『雪と珊瑚と』は、産後の精神的につらい時期に、本当に助けられた物語です。

あらすじを紹介すると、

21歳でシングルマザーになった珊瑚という女性が、娘・雪を抱えて、どうやって生きていこうかと途方に暮れていた時、”くららさん”と出会います。

くららさんは、離婚歴のある、元・外国の修道女。珊瑚が仕事をしている間、雪を預かって保育してくれることになりました。

珊瑚は、くららさんの、やや浮世離れしていて、温かい人柄に助けられて、生きる力を吹き返していきます。

そして、家庭的で安心なご飯を提供する、カフェを自分ではじめます。

こう書くと、逆境にある女性のサクセスストーリーのようですが、この物語の本質はそこではありません。

他者からの温かい何かを手渡してもらうこと、受け取ることが、「生きていく力」に結び付く。そのことを、じわっと描いてくれています。

最後の1ページは、・・・育児に悩んだことのある女性なら、涙なくしては読めないんじゃないかと。

それで、この本から、以下の部分を引用して紹介します。

珊瑚が、お店を始めるにあたって、場所や資金という問題にぶつかっている時、場所を提供してくれるというオーナー・恵さんから、思わぬ好条件を申し受けた時の、くららさんと、珊瑚の会話です。

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「私が、雪と二人でいきていく、それだけのことが、人の同情を呼ぶ。そのことに、うすうすは気づいていました。くららさんだって、本当のところ、そうだったんではないですか。(中略)いえ、そのことを、責めてるんじゃないんです。ものすごく、ありがたいことだと思っているんです。本当に。ただ、なんというか・・・・。そういうことに頼って生きていくような自分が嫌なんです」。

それだけ言うと、俯き、両手を合わせて額を支えた。くららはしばらく黙って珊瑚を見つめていたが、

「今までは、でも、そういうことにそれほど、なんというか、アレルギー反応みたいなのは、出なかったのでしょう。今日、『恵さんの優しさ』で、一気にそれが意識の表に出てきてしまった、ということなのかしら」

「たぶん…」

(中略・修道女時代の経験を語るくらら。)

「欧米の国々の中にはね、自分たちがいつも施す側だと思っているところが多かった。やらなければならないという義務感だけで黙々とやってきたにしても、正しいことをやっているという気持ちの良さがあることは否めない。(中略)

問題は、人類が生まれてから、ずっと、ありがとうございますと、お礼を言いつつ施される側にあった人々のことです。
感じていたのは、感謝だけとは言えない。
ごく稀にはそれだけのこともあるだろうけど、大かたは、六割の感謝、二割の屈辱感、二割の反感、みたいなものだったろうと思います。
けれど、それでも生きていかないといけない、という現実が、彼らに頭を下げさせる。
『施す側』の中の、センスのいい人々は、なんとなくそれを感じ取って、彼らに卑屈さを感じさせまいと余計に丁寧に接する、そうするとそのことがまた、彼らの屈辱感を倍加させる・・・」

くららはため息をついた。この辺りのことは、どうやら彼女の修道女としての海外活動で通ってきた葛藤であるらしかった。

「けれど、施す側もいろいろだけど、施される側もいろいろです。施されてやっているんだ、お前たち善行をさせてやっているんだ、とばかり、貰ってやるという態度の人もいる。礼も何も言わず、当然の権利のようにもっともっとと要求してくる人たちもいる。それほどではなくても、施される、ということは、そのままプライドまで差し出さなければならない、ということでは全然ないのよ。なんというか、一番その人のプライドが試される、重要な瞬間なんです。」

(『雪と珊瑚と』P139~P141)

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ここの部分、すごく私の心に響くんです。

「お願いします。ありがとうございます。」

この言葉を言う時、プライドが試される。

2割の屈辱、2割の反感。
これを感じたくない人は、どんな手を差し伸べられても、つっぱねることでしょう。

私は、妊娠・出産・子育ての経験は、「自分一人の限界を受け入れて、サポートを求める力、受け入れる力」を伸ばしてくれると思っています。

色々なケアやサポートを受け入れたとしても、「私の尊厳」「私の価値」は変わらない。

それが実感として思えたのなら、すごく人間的な成熟だと思いませんか。

また、今は私は産前・産後のサポートする側として、自分のもてる能力を使いたいと思っていますが、

”正しいことをしている”自分に酔わないように。
自分に正直に、かつ他者の喜びを一緒に喜びたい。

そんなメッセージも、この引用部分から受け取ります。

ちょっと長い小説なので、本を読む時間なんてないわ~って方もいるかもしれませんが、
ご褒美としの”一人時間”におススメしたい一冊です。

あと、この小説には、たくさんの料理が出てきます。

読むだけで、料理の腕があがります!!本当に!!

そういう点でも、おススメします(笑)。

ただ・・・、
産前・産後の女性が大切にされる、社会からサポートを受けることは当たり前で、今回書いていることが、全然、ママたちの心に響かないような世の中になることも、願っています。

それでは、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

ふじさわマターナルカウンセリングルーム 藤澤真莉

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