夢の分析と宮大工のまなざし:人の“木目”を読むということ

夢分析は、ユング派をはじめとする深層心理学の領域が得意とする技法です。 私自身もカウンセリングの中で、クライアントさんから夢の報告を受け、その象徴や意味を一緒に掘り下げていくことがあります。

すると、カウンセリング以外の場面でも、 「こんな夢を見たんだけど、どういう意味?」 と尋ねられることがよくあります。面白い夢や不思議な夢を共有する感覚で、半分は占いのように、半分は世間話として聞いているのだと思います。

けれど、私はこの質問にいつも戸惑います。 なぜなら、夢の“その部分だけ”を切り取られても、意味を判断することはできないからです。

この戸惑いについて、ようやく自分の中で言語化できるところまで考えがまとまってきたので、今回はそのことを書いてみようと思います。

目次

宮大工の話

夢の話に入る前に、ひとつ、私がとても好きな比喩を紹介したいと思います。 それは「宮大工さんの仕事」にまつわる話です。

宮大工さんは、何百年、時には千年単位で建ち続けるお寺を木でつくります。 使われる木材は、加工された時点ではまっすぐな角材や柱に見えます。

けれど宮大工さんは、その木材をじっと見つめ、その木が“樹”だった頃の癖──わずかな曲がりやねじれ──を見極めます。 そして、その癖に合った場所に木材を配置していくのだそうです。

長い年月が経つと、どんなにまっすぐに加工されていても、木は元の癖を表し始めます。 だからこそ、その癖を理解し、癖に合った役割を与えることが、建物を長持ちさせるために欠かせないのだといいます。

この宮大工さんのまなざしは、私が師匠から教わったカウンセリング観と深く重なります。

人間にも、生まれながらにして必ず“癖”があります。 その人の気質、反応の仕方、ものの感じ方、身体のリズム──そうした「その人らしさ」の根っこにある癖です。

そして、その癖に沿った生き方、癖に反しない人生の組み立て方こそが、健康で、無理がなく、長く続けられる充全な生き方につながると考えています。

心理療法とは、その人が本来もっている“木目”を一緒に見つけ、その癖に合った方向へと生き方を微調整していく手助けなのだと思います。

魂、意識の深層構造

さて、ここで夢の話に戻ります。

深層心理学や、哲学的・宗教的な神秘主義の教えには、人間の魂の構造についての知恵が蓄積されています。 宗教や文化によって表現はさまざまですが、私が現時点で理解している“共通点”をここにまとめてみます。

■ 魂の最も深い層:仏教でいう「空」

魂の一番深い層は、仏教的には「空」と呼ばれます。 ここは“空っぽ”であり、“何もない”のですが、同時に“すべてがある”。 あらゆる存在の根源が潜んでいる、豊かな無の層です。

■ 第二層:空から生まれるエネルギーの層(エッセンス/ドリーミング/ミュトス)

次の層は、空から立ち上がるエネルギーの領域です。 「エッセンス」「ドリーミング」「ミュトス」など、伝統によって呼び名は異なりますが、いずれもまだ言語化できない、純粋な生成のエネルギーが渦巻く層です。

■ 第三層:象徴や神話として立ち上がる層(元型/集合的無意識)

さらにその上の層では、エッセンスのエネルギーが分化し、 象徴的なイメージや神話的な物語として形をとり始めます。 ユング心理学では、この層を「元型」あるいは「集合的無意識」と呼びます。

■ 第四層:個人的無意識

集合的無意識の上には、個人の経験や記憶が沈殿している「個人的無意識」があります。 夜見る夢や白昼夢は、この集合的無意識〜個人的無意識の層から浮かび上がってくるイメージの断片です。

そして、その断片の一部を意識が拾い上げたとき、私たちはそれを「夢」として言葉にできます。

■ 空から意識へ──階層が上がるほど“分節化”が進む

空という源から個人的な意識へと階層が上がるにつれて、 エネルギーはどんどん分節化し、枝分かれし、個別の形をとっていきます。

たとえば、今の私の目の前にはパソコンとコーヒーがあります。 通常の意識では「私はパソコンを打っている」「私はコーヒーを飲んでいる」と捉えます。

しかし魂の視点から見れば、 私も、パソコンも、コーヒーも、すべて同じ「空」から出発した存在が分岐したものにすぎません。

「存在が、真莉(私)している。」 「存在が、パソコンしている。」 「存在が、コーヒーしている。」

これらはすべて並列で、同じ源を共有しています。

以上のような、魂と意識の階層構造があることを、ここから先の話の前提としておいてください。

カウンセリングで夢を分析するとは

このような魂と意識の階層構造を前提にすると、夢分析とは、意識の表層に現れたイメージを手がかりに、
そのイメージがどの層から立ち上がってきたのかを、少しだけ下の次元へ遡っていく作業だと言えます。

私たちが夢として覚えている内容は、最も表層に近い「個人的無意識」の断片にすぎません。
しかし、その断片はさらに深い層──集合的無意識の象徴や元型──から押し上げられ、 そのさらに奥には、言語化できないエッセンスの層、 そして最も深い源である「空」があります。

夢分析とは、夢に現れた象徴を“占いのように解釈する”ことではありません。
むしろ、意識に現れたイメージを入り口にして、その背後にある無意識の層へと、そっと降りていくプロセスです。

夢の一部だけを切り取っても意味がわからないのは、 その象徴がどの層から浮かび上がってきたのか、 どのような文脈で形成されたのか、 その人の“木目”──生まれながらの癖や気質──とどう関係しているのか、 それらを丁寧に辿らなければ見えてこないからです。

夢分析とは、意識の表層に現れた“枝先”から、 その枝がどの幹につながり、どの根から養分を受け取っているのかを探るような作業です。 つまり、空から分化してきた流れを、ほんの少しだけ逆向きに辿る営みなのです。

目の前のクライアントさんが、どのような成育歴を歩み、今どんな悩みを抱えているのか。 家族関係はどうなっているのか。 そして、実際に対面しているときに私が直感的に受け取る“その人らしさ”──身体のリズム、語りの癖、表情の揺れ、沈黙の質。

こうした情報の総体があって、初めて夢の意味を汲み取ることができます。

夢に現れる象徴は、その人の無意識が今の人生のどこに負荷を感じ、どこに可能性を見出そうとしているのかを示すサインです。 しかし、そのサインは“夢の断片だけ”を見ても読み解けません。

その象徴が、クライアントさんのどの層──個人的無意識なのか、集合的無意識なのか、あるいはもっと深い層なのか──から立ち上がってきたのかを、全体の文脈の中で見ていく必要があります。

だからこそ、夢分析とは、クライアントさんの人生全体を背景にしながら、 無意識からのメッセージをクライアント自身が意識的に生かせるよう、一緒に考えていく共同作業なのです。

このような夢をめぐる共同作業は、クライアントさんとの信頼関係があって初めて可能になります。 そして、継続的なカウンセリングの中で、その人の人生の文脈や“木目”が少しずつ見えてくるからこそ、夢の象徴がどの層から立ち上がってきたのかを一緒に探ることができます。

ご自身の人生への理解を深めたい方、 自分の魂や意識の癖を知りたい方、 無意識からのメッセージを今の生き方に生かしたい方──

そうした方に、夢を手がかりにしたカウンセリングはとても向いています。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
あなたの人生が満ち足りたものになることを心より応援しています。

妊娠産後メンタル相談室マリー
藤澤 真莉

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