妊娠中のうつ・産後うつ・未診断のうつ状態
産後うつ病
産後うつ病とは、出産してから2週間~数か月で発症します。
出産した女性の、約10%の女性がなると言われています。
産後うつ病は、以下のような症状が出ます。
- 気分が落ち込む
- 涙もろくなる
- 興味や喜びを感じにくい
- 睡眠障害。不眠、過眠。
- 自分に価値が無いように感じる
- 焦る気持ち、罪悪感が高まる
このような状態が、2週間以上続き、育児や家事、生活全般に支障をきたすようになると、「産後うつ病」と診断されます。
実は、妊娠中のうつもある
産後うつ病は、一般的によく知られる言葉なのですが、実は、「産前うつ」もあります。
「妊娠中の女性は、幸せいっぱい、気持ちが安定している」と思われがちなのですが、
産前にも、気持ちの落ち込みや、強い不安を感じ、うつ状態になる方が一定数います。
妊娠中の女性は、心も母親になる準備をしており、内向的になる傾向があります。
そのため、妊娠中に、自分の内側にこもりたくなるのは自然なことです。
しかし、
- 出産に対する過剰な恐怖
- 育児に、楽しみや良いイメージが持てない
- 眠れない、(つわりとは違って)食欲がない
- あまりにも気持ちが重い
となると、産前のうつ病が疑われます。
産後にうつ状態のなる人の、50%が、産前からうつ状態が始まっています。
未診断のうつ状態
そして、子育て中の女性に、実に多いのが、
「とても気持ちはつらいのだけど、なんとか家事や育児はやっている」
「うつかな?とは思うけど、病院は行っていない、診断がついていない」
という、未診断のうつ状態の方です!
NPO法人マドレボニータさんの、WEBアンケート調査(H28)によると、
”産後2週間から1年の間に、「産後うつ」になりましたか。”
という質問に対して、なんと77%の人が、
- 診断は受けていないが、産後うつだったと思う(30.4%)
- 産後うつの一歩手前だったと思う(46.7%)
と答えているのです。
このような状態を、マドレボニータさんでは、「産後うつ未満」と名付けていました。
こんなにも多くの女性が、産後に苦しんているのが、実体なんですね。
産前・産後うつの原因
では、産前・産後のうつの原因には、どのようなものがあるでしょうか。
産前・産後のうつ病は、以下のような複数の要因が重なっていると言われています。
- 夫・実母などからの情緒的サポートの不足
産前・産後は、夫や実母という一番身近な家族の支えは、とても重要です。産前・産後の女性が、夫や実母に「お願いしてもいいんだ」「甘えてもいいんだ」と思えて、涙も笑顔もありのままを受け止めて、共感してもらえると、それだけで気持ちは落ち着くものです。その安心感が、赤ちゃんのお世話をする心のエネルギーの基盤となります。
しかし、夫、実母に、「理解してもらない」「家事をお願いしたら、母親失格だと言われる」ようなことがあると、産後が断然つらくなります。 - 対人関係のゆがみ
大人になるまでの間に、人間関係において、”落ち着く距離感”や、”人と私の関係は、こういうものだ”という、ひな型を身に着けています。それは、幼少期の親との関係や、学校や社会の中で経験した友人関係、上下関係などの積み重ねでできています。対人関係のゆがみとは、親密な人との関係で、例えば「私が本音を言ったら嫌われる」とか、「近づきすぎると拒絶される」とか、深い部分での信念、ひな型があり、それがご本人を苦しめていることです。
産前・産後は、心身ともに、周囲からの助けが必要で、ご自分からサポートを求めてく力も必要です。
しかし、対人関係のゆがみがあると、サポートを求めると「傷つけられる」、「弱みをにぎられる」、「負けた感じがする」などの気がして、求められなくなり、一人で大変さをしょい込んでしまいます。 - 不適切な養育体験
ご自分が子どもの時に、「愛された」「大切にされた」経験のある人は、自分の子どもにも、ごく自然にそのように接することができます。しかし、虐待を受けて育った女性は、「私はちゃんと母親ができるだろうか。」という、強い不安があります。また、「普通のお母さん・お父さんというものがわからない」という訴えも、よくあります。
不適切な養育体験のために、「私には、母親になる能力・資格があるのだろうか」という根本的な不安感があり、逆に育児に力が入りすぎて、100%、完璧であろうとして、疲弊してしまうことがあります。あるいは、赤ちゃんとの関わりが、ご自身のつらい体験を思い出させてしまうために、難しくなることもあります。
そして、自分を責め、罪悪感を感じることが、産前・産後のうつを招きます。 - 精神病の既往歴がある、家族歴
かつて、気分障害(うつ病)や、パニック障害、摂食障害などの心の病気になったことのある方は、産前・産後に気持ちが揺れやすくなります。また、精神病には、双極性障害など、生物学的的要因が強いものもあります。これも、産前・産後のうつ病に影響を与える要因です。 - ホルモンの変化
産前・産後は、女性ホルモンが急激に変化しています。ホルモンの変化は、脳内の神経伝達物質に影響を与えます。産後うつ病に関わらず、うつ病は、セロトニンという神経伝達物質が足りなくなる、ストレスによりノルアドレナリンが増える、という状況が起こっており、これらはお薬によって改善が見込めます。
産前・産後の女性ホルモンの大きな変化が、女性の感情や体調に大きく影響を与え、涙もろくなったり、普段は気にしないことに過敏に反応したり、イライラがおさまらなかったり。「自分ではどうしようもないものに、乗っ取られた感じ」と経験されます。 - ネガティブ・ライフイベント
妊娠中や産後に、身近な人の病気や死、失業など、ネガティブなライフイベントがあった場合、女性にとって大きなストレスになります。また、自然災害に遭うことも、大変な不安を喚起します。将来を悲観し、焦る気持ちや、絶望感を感じます。 - 赤ちゃんの気質・お母さんの気質
赤ちゃんは、生まれたときから、一人ひとり違う個性を持っています。
おっぱいにずっと吸い付いていたい子、逆にすぐに飲むのをやめる子、睡眠時間が短い子、大人しい子。
その個性を、お母さんが理解し、受け入れて対応できるようになるまでに、時間がかかる場合があります。
また、お母さん自身にも、にぎやかで楽しいことが好きな人、しっとり落ち着いた関りが好きな人、自分の好きな亊に邁進したい人、それぞれタイプがあります。赤ちゃんとママ、それぞれにとって、必要で心地よい関りは、日々のお世話を通じて見つけていくものですが、その過程ではイライラ、疲れ、落ち込み、色んな感情が出てきます。
産前・産後うつ病への対処
産前・産後うつ病への対処は、うつの程度によって異なります。
<軽度・中度>…気分の波や落ち込みはあるが、育児や家事はこなせている状態。感情の動き、喜怒哀楽がある。
このような状態の時には、
- ゆっくり安心して話を聞いてもらう。カウンセリングや、相談機関を利用。
- 育児や家事の体制を見直し、ママの負担を減らす。それを通して、夫や実母との関係を調整する。
- 地域の中での居場所探し。
こういったことを通して、ママの産後の心と身体の回復を助けます。そして、まだ地域にママ友などの知り合いがおらず、孤立している場合があります。子育て支援センターや、ママたちの集う場所に、行く勇気がでないのかもしれません。「行きたくない」「行くのが怖い」気持ちも尊重しながら、地域の人たちとつながるように、一歩に踏み出せるように、応援しましょう。
<重度>…気持ちの落ち込みがひどく、起き上がることも難しい。家事、育児に支障をきたしている。「死にたい」と思う。気持ちがう動かず、表情の変化が乏しい。食事がとれない、睡眠の問題がある。
このような状態の時には、
- はやめに精神科、心療内科の受診をお勧めします。精神科の敷居が高い時には、出産した産婦人科の病院や、地域の保健センターに連絡して、相談しましょう。
- 身体を休めることが、最優先です。利用できるサポート資源を使い、なるべく、ママが赤ちゃんと二人きりで過ごす時間を短くしましょう。
うつ病にかかると、本人はSOSを出すことすら、できないことがあります。
ご家族が、「あれ?大丈夫かな?」と気づいた場合には、まずは、ゆっくり話を聞いてあげてください。アドバイスはせずに、何をつらいと感じているのか、丁寧に理解してあげてください。そのうえで、ご本人と一緒に、どうしたらいいか考えましょう。
相談するのは、恥ずかしいことではありません。
ダメなママと、レッテルを貼られるわけでもなく、弱いわけでもありません!
ママとご家族の相談に乗ります
私は、プロの心理カウンセラー、臨床心理士として、多くのママが経験する産前・産後の精神的なつらさを軽減したい。ママが、赤ちゃんと一緒に過ごせる貴重な時間を、ゆったり楽しんで過ごせるサポートをしたいのです。
家族や友人ではないので、どんなことでも利害なく、安心してお話していただけます。
また、うつの程度をアセスメントし、適切に社会の資源とつながれるようにサポートします。
ママだけでなく、どうしてあげたらいいかわからないご家族の相談も、お受けします。
あなたの人生のなかで、大事なこの時期を、心豊かに過ごすお手伝いをさせてください。